腸活日記

健康のために腸を中心とした活動の記録

今後の腸内フローラ研究

論文リンク

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsb/62/2/62_2_255/_pdf

 

ヤクルト中央研究所基礎研究II部

松木 隆広

 

 腸内フローラの構成が正確かつ簡便に解析できるようになったことから,今後この手法はこの微生物群集の活性や宿主との相互作用を調べる研究に応用されていくものと考えられる。

 今後が期待される腸内フローラ研究としては,特定の疾病に関与する腸内フローラ構成菌の探索,腸内フローラの持つ生理作用の研究,腸内フローラの細菌間コミュニケーションの解明,腸内フローラに対する宿主の応答の研究,などが挙げられる。

 特定の疾病に関与する菌の探索:特定の疾患患者の腸内フローラを網羅的に調べることによって,その疾病に関与する菌を同定できる可能性がある。

 大腸がんと腸内フローラの関連は,培養法により1970年代から研究されており
(25),最近では炎症性腸疾患と腸内フローラに注目した研究が盛んに行われている(13,24,30)。

 また,アレルギー疾患と腸内フローラの関連についても多くの研究が行われ
ている(14,27)。

 今後,これらの疾患に関連する菌の探索や関連性を検証する研究に,この手法が用いられていくものと考えられる。

 腸内フローラの生理作用:腸内フローラの持つ生理作用については,これまで多くの報告があり,今後も新たな活性が明らかになっていくものと考えられる。

 腸内フローラ構成菌が,未消化の栄養を代謝して宿主が利用できるエネルギーを供給することは以前から報告されているが(5),最近この活性の違いが結果的に肥満と関係していることが報告され,注目されている(15,36)。

 大豆に含まれるイソフラボンの一種(Daidzin,Genistin等)は,腸内フローラによ
アグリコン化され,一部の人では更にエコールに変換される。

 腸内菌によるエコール産生は,女性の乳がんおよび男性の前立腺がんの発生リスクと負の相関があることが報告されており(1,12),エコール変換に関与する菌の探索が
進められている(6,37)。

 また,糞便中の細菌由来の遺伝子すべてをクローニングして,そこに存在する遺伝子を調べる「メタゲノム解析」が進められている(10,16)。

 この網羅的なゲノム解析によって,腸内フローラの新たな機能が
発見される可能性がある。

 細菌間コミュニケーション:フローラ構成に影響する因子の解明も,今後の研究課題と考えられる。

 食事(餌)や消化管構造,消化酵素の量などの宿主・環境の要因のほか,
細菌間のコミュニケーションもフローラ構成を規定する重要な因子のひとつであろう。クォーラムセンシング(細胞密度依存的制御機構)による遺伝子発現調節機構の研究な
どによって,フローラ構成に影響する要因が解明されれば,腸内フローラのバランスをコントロールして,疾病のリスクをコントロールできる可能性も考えられる。

 宿主の応答:腸内フローラに対する宿主の応答の研究は,宿主・細菌双方のゲノム情報の蓄積によって,遺伝子レベルの網羅的解析が可能になりつつある。

 単純な系ではあるが,すでにマイクロアレイを用いた解析によって,ある特定の腸内細菌の定着と宿主の遺伝子の発現量の変化が解析されている(11,31,33)。

 Sonnenburgら(2006)は,Bacteroidesthetaiotaomicronの単独定着マウスを用いた実験で,菌の特定の遺伝子を欠損させることによって,宿主の遺伝子の発現量が変化することを報告している(33)。

 したがって,ある腸内菌の特定の遺伝子が,宿主の腸疾患に関係する遺伝子の発現に関与していることが,将来明らかになるかもしれない。

 

お勧め乳酸菌>https://www.yuishop.jp/?s=c36425